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特集2

グローバル時代は博士人材を積極的に活用しよう!(1)<2016年02月18日>

■博士人材の受難な時代


イノベーション創出若手研究人材の育成とキャリア支援にたずさわって10年になる。2006年当時の時代背景は、ポスドク一万人計画により増員してきた博士課程を修了した若手人材が、大学等の研究職などのアカデミアポストが少ないだけでなく、あったとしても2-3年の任期付きポストが多いため、将来的に不安視する状況が多かった。また、教員の中には、博士学生やポスドクを私利私欲の研究のために奴隷的な扱いをする者がいるとの指摘も見られる(1)ように、博士人材にとっては受難の時代と言える状況であった。さらに、「高学歴プア」などという言葉もマスコミでだされ、博士号取得者に対して逆風が吹き、優秀な学生は、修士課程を修了したらさっさと企業に就職するパターンが多く、企業側も修士学生の採用が重点であり博士採用を積極的にするのは製薬業界などほんの一部の業界のみであった。
グローバル社会の中で、博士号取得者のビジネス界での役割が多くなってきているにもかかわらず、我が国の企業研究者に占める博士号取得者割合は、ヨーロッパの1/3、米国の1/2と少ない(2)。
指導教員の中には、学位取得を優先することに加えてアカデミア以外のキャリアパスを考えない者も少なくないことと、今でも学位取得のめどが立つまでは就活禁止令を出す教員もあり、アカハラに苦慮する学生も見受けられる。

■文部科学省が博士人材の活用について問題提起
そのような事態を改善すべく、文部科学省では、平成18年度に「科学技術研究人材のキャリアパス多様化促進事業」、平成20年度から「イノベーション創出若手研究人材養成事業」を立ち上げて、ポスドクに加えて博士学生がアカデミア以外の民間企業等への就職をサポートする仕組みや体制づくりを推進してきた。特に後者は、ポスドクや博士課程学生を民間企業等で3ケ月間以上の長期インターンシップを経験させることにより、アカデミア以外の研究等について学びの場を提供するものである。
東北大学は両者に申請して採択されたが、筆者は申請当初から関わり、企画推進してきたひとりであり、多くのポスドクや博士学生のキャリアパスをサポートしてきた。
筆者が東北大学で仕事をすることになったのは、4月から国立大学が法人化になり、同時に知的財産部を設置することになった2004年1月であった。
余談になるが、産学官連携を推進するにあたっての基本的な考え方を定義する「産学官連携ポリシー」を制定することになった際に、ある条文のなかに「PDCAを回して・・」の一節を入れて提案した所、「これはなんだ、こんなことを条文に入れたらそれだけで3日位議論の時間がかかるので困る」という言葉が返ってきたことを覚えている。今では政府や国会議員でもPDCAを回すという言葉をかなり頻繁に使っているが、12年前は少なくともQC界以外の大学の教員で知る者はほとんどいなかった。
話を元に戻すことにする。
筆者の他に、大手化粧品会社で教育担当部長や営業部門の支店長を歴任し、退職してから某協会で企業の早期退職者の就職あっせん業務を担当していたキャリアカウンセラー(特任教授)を迎えて、2人体制でサポートしてきた。
ポスドクおよび博士学生の悩みは何か、なぜ就活に苦労しているのか、企業は博士採用に対しどのように考えているのかについて問題解決型アプローチによる現状把握を行った。
ヒアリングの結果、ポスドクおよび博士学生の一番の悩みは、安定した就職ができるかどうかであった。見方を変えれば、研究が好きなために博士後期課程に進学した場合に、任期付きではなくパーマネントの就職が出来るかどうかが気がかりで、進学を躊躇するケースがあると言うことである。
各大学には、キャリア支援センターと称する就職を支援する組織があるが、学部学生と修士学生が対象であり、博士学生は指導教員に任せられている。産学連携による共同研究などを推進する教員には企業情報が入ってくるが、理学系や生命科学系などでは企業情報が入りにくいため、指導教員自身が学生に対して就職先などの企業情報を紹介することは難しい状況である。
一方、企業の採用部門や研究開発部門の責任者を訪問して、博士の採用に対する考え方をヒアリングした。その結果、当時は「修士の採用時期に博士も合わせて面接し、良い人がいたら採用する」というのが大半の答であった。ただし、肝心の採用人数は製薬企業や大手電機以外は、ゼロまたは一桁がほとんどであり、かなり厳しい環境であることも認識できた。さらに突っ込んだ質問として、博士に対する不満についてヒアリングしたところ、「自身の専門に拘りすぎてつぶしがきかない」、「視野が狭く社会人基礎力が不足」、「コミュニケーション力が足りなく組織の中でリーダーシップが取れない」、「ゼロから課題を形成して解決できる素養を期待する」といった答えが多かった。
文部科学省のこの事業に申請して採択された大学の関係者が集まって情報交換する場があったが、「博士学生やポスドクの採用がはかばかしくないのは、企業が採用しないからである」と、企業のせいにする発言が多くだされたが、筆者はそれに対して、ヒアリング結果をまとめて、大学が博士学生やポスドクに対して社会のニーズに応えられる人材育成と支援体制ができていないことが最大の要因であることと、大学の教育改革と博士の支援体制充実の必要性についても言及し、まずは大学側の問題が大きいことを強調した。

<参考文献>
(1)宮田満;Wmの憂鬱、ポスドク1万5000人の奴隷解放【日経バイオテクONLINE Vol.1759】
(2)総務省統計局「平成25年科学技術研究調査」など

《記事の続きはこちらから》
グローバル時代は博士人材を積極的に活用しよう!(2)に続く

 
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Profile

髙橋富男

東北大学 高度教養教育・学生支援機構 高度イノベーション博士人財育成ユニット 事業統括主幹(工学博士)

1964年東北大学工学部卒業。大手非鉄金属企業で、研究所、電子材料事業部門などの多角化部門、中央研究所副所長、研究開発本部開発企画部長、技術情報部長などを歴任、社内ベンチャーとして、日本照射サービス株式会社を企画し立上げ代表取締役社長。2003年工学博士(東北大学)。2004年1月から東北大学にて知的財産部門整備事業を担当、産学官連携推進本部副本部長、2009年から高度イノベーション博士人財育成センター副センター長、2014年4月より現職。2004~2011年東北大学客員教授。

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