BC
34.BCでの「層別」との遭遇<2023年01月06日>
大阪電気通信大学 情報通信工学部 教授
猪原 正守 (61BC・O修了)
猪原 正守 (61BC・O修了)
1.BCとの遭遇
私が品質管理と遭遇したのは大学院の1年生のとき、当時の大学院で(故)丘本正先生のもとで開催されるMAGという研究会に参加した際、当時大阪市立大学医学部に勤務されていた磯貝恭史さん(現、流通科学大学)から“統計学を研究するには動機が重要である。日本科学技術連盟の大阪事務所で品質管理ベーシックコースの書記を募集しているので、参加してはどうか”という一言にはじまる。
しかし、BCの中で教育される品質管理の考え方や深淵さには迷うことばかりであった。統計学といえば、大学院のセミナーで学ぶ理論が中心で、実際にヒストグラムや散布図作成したことも分散分析表を作成したこともなかった私には、多くの受講生と同様、公式に従って時間内演習問題の空欄を形式的に埋める手作業で手一杯であった(当然、テスト成績は最悪であった)。
そうした数理統計手法の講義にも四苦八苦する状況下で、層別ヒストグラム、層別散布図あるいは層別管理図の作成における「層別」という考え方は、統計学=仮説検証的解析手法というイメージを持っていた私に、「仮説の探索」あるいは「仮説の生成」という統計学の重要な機能との遭遇の機会を与えてくれた。
2.班別研究会で実践問題に遭遇
当時は、BCの受講希望者が列をつくるほどの大人気のころであったため、出来の悪い私にもBC講師予備軍として品質管理を深く学ぶ機会を得ることができた。最初はBC・O班別研究会の講師としてお手伝いするとともに、恐れ多くも「相関分析」の講義を2人制講義としてさせていただくことになった。ご指導は京都大学のK教授であって、前半を私が担当することになった。片方の黒板に2次元正規分布の等高線の絵を描き、他方の黒板に条件付き期待値の公式を作成して相関のいろいろを説明したが、「先生、相関係数がいくらになれば相関があるといえるのですか?」という質問に「???」で頭が真っ白になったのを記憶している(いつまでも消えない失態であった)。
その経験が、大学における後日の私の「講義内容の目的から入り、手段を展開する方法」を決定したといっても過言ではない。そういえば、永田靖教授(早稲田大学)のトピックスでも「相関分析」を最初に講義したと記されているので、当時は「相関分析」が講義の入口であったのかもしれない。こうした講義を通じて、「良い講義とは何か」を改めて考えさせられた。その後、BCの講義は数多く担当しているが、いまだに「良い講義とは何か」を自問自答している。
受講生が大挙していたことが幸いしたのか、班別研究会の指導講師の末席を汚すことになった。最初の受講生はM工業(株)の優秀な技術者であった。テーマは、自動車の躯体に対する官能評価試験における評価基準の策定であったと記憶している。その後、
M社の技術者とまったく新しい機構のカメラに関する号試問題を、また、S社の研究開発部門の技術者と缶の飲料における試作試験の評価問題を一緒に研究した。当時は、開発・設計・生技部門の技術者が、各社の最先端の技術問題を班別研究会で取り扱い、上司の強力な支援のもとで班別研究会を越え会社訪問などして一緒に研究することができた。これが、私の企業指導の最初の経験であるといってもよい。このように、班別研究会は若手のQC講師を育成するうえで重要な機能を果たしてきたと思っている。
3.データ解析における層別の果たす役割
今日はビッグデータの解析という言葉が氾濫している。「大規模データを解析すれば何か新しい発見につながるのではないか?」という期待があるのかもしれない。しかし、無目的に収集されたデータを解析しても発見には至らないのであって、目的を達成するために計画的に収集されたデータこそが役立つ情報を提供するといわれる。その意味で、実験計画に基づくデータの解析は、目的を達成するうえで効果的かつ効率的な情報を与えてくれるというのは正論であって、これを否定することはできない。そのような計画的に収集されたデータを得ることができれば、当然、そのとおりである。
しかし、現実はそんなに甘くない。「集めてきたデータ」ではなく「集まってきたデータ」で何か新しいことを知りたいと願うのは万人の願望である。集まってきたデータは粗悪であることを知った上で、なんとかしたい。そのような期待に応えることのできる方法論が探索的データ解析法である。最近では、統計ソフトの利便性向上や高度なSQC手法に対する講義への要望などの影で講義時間を削減される傾向にあるが、「ヒストグラム」、「散布図」、「管理図」などといったQC七つ道具や「箱ひげ図」などの探索的解析ツールを確実に利用でき、「層別」によって新しい知識を獲得できる人材の育成も大切ではないかと考える。特に、「層別」の考え方を真に理解し、これを駆使することで“宝物”を発見できる人材の育成が大切であると考えている。
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