４０．模擬実験・摸擬生産によるSQCの模擬体験教育（１）＜2023年01月12日＞

　今から40年以上前の昔のことですので、多くの記憶は薄れてしまい定かではありませんが、当時BC（ベーシックコース）とDE（実験計画法コース）をほぼ同時期に受講していたと記憶しています。6ヶ月の間は書記の任務である記録と毎月出題されるハードな宿題に追われて大変でしたが、講義に登場する講師の先生方はどなたも気合いが入っておられて準備も万端で、どの講義も知的でとても刺激的でした。

　受講したのは大学院の院生時代でしたので、QCの使われている現場のこと（実務）はまったく分かりませんでしたが、「チップ実験」と「QCゲーム」といった実技演習は、とても興味深いものでした。しかし、一方で少し物足りなくも感じていました。本来「工学のデータ」というものは「机上のデータ」ではなく、物作りに関連する実行為の結果として得られるものですから、チップや乱数に頼ることなく何か簡単な作業（工作）をしてその結果を測定したものをデータとして用いたらどうだろうか、と考えたのです。

　大学院を修了後は、東京理科大学と慶應義塾大学で長らく教鞭を執りました。教える側になってから、「チップ実験」を進化させて「コイン射撃」というものを考案しました。しくみの本質はまさにパチンコで、「チップ実験」で行える統計教育の内容は全てカバーでき、2変数の重回帰分析の実験も可能です。ゲーム性が高いこともあり、「コイン射撃」は受講生にスムースに受け入れられました。（参考文献[1]参照）。

　一方「QCゲーム」は「紙グライダー」と「紙ヘリコプター」というものに進化させました。「紙グライダー」は4部品（機首、左翼、右翼、胴体）からなる組立製品です。組立製品ですからライン編成（役割分担、机のレイアウトほか）をどうするか、工具（大小の鋏、多種類のカッターほか）や治具（格納庫、調整台、運搬具ほか）をどう工夫するかなどがポイントで、物作りの基本と関連づけてQCを学ぶことができます。この「紙グライダー」は、製作に時間がかかるということと、ある程度のスペースが必要なことからBCではまだ実施していません。（参考文献[3]参照）。

　「紙グライダー」の時間がかかることと初心者には多少難度が高いというネックを解決したのが「紙ヘリコプター」でした。東京理科大学勤務時に芳賀敏郎先生（当時東京理科大学）から教えていただいたのが紙ヘリコプターで、椿広計先生（当時慶應
義塾大学）が米国（MIT）から持ち帰られた優れた教材で、日本品質管理学会の研究会の席で椿先生がメンバーの皆さんに紹介されたものであるというご説明でした。当時担当していた経営工学実験で数年間実施するうちに、これを進化させてみたくなり
ました。具体的には、①扱える変数を増やしたい、②「紙グライダー」と同様に組立型にしたい、③頑健設計も可能にしたいと考えた次第です。

　進化させる基本アイディアを思いつきましたので、サバティカルをとりましてYale大学に滞在し、滞在中は研究に専念することができました。このタイミングで本格的に開発を行い、Yale大学の大学院生たちの積極的な協力もあり、「複葉型紙ヘリコプ
ター」を完成させました。これは上翼と下翼を結合する（ホッチキスで止める）タイプで、変数は20前後扱うことができます。しかし、通常の講義（入門的な講義）の場合には10変数前後と控え目にして受講生が混乱しないように実施しています。なお、変数を翼長と翼幅の2変数を用いて「紙グライダー」と同様の応答曲面のQCゲームを行うことも可能なものに仕上げました。（参考文献[1]参照）。
【参考文献】
[1] 高橋武則(1992)：「統計的方法と管理・改善」, 品質月間委員会 .
[2] 高橋武則(1998)：「模擬生産・模擬実験と統計的品質管理」, 品質月間委員会.
[3] 高橋武則(2014)：“模擬体験による認識・創造・経営の教育－質を中核としたデータ・マネジメントの体験教育－” ,品質誌, V0l.44, No.1，pp.49-57.
[4] 高橋武則(1986)：「統計的推測の基礎」, 文化出版局 .
[5] 高橋武則(1993)：「統計モデルとQC的問題解決法」, 日本規格協会.