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SK/RE(企画・開発・信頼性)
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開発段階で品質のばらつきをコントロールし、お客さまの満足を獲得する<2021年08月03日>

 製品品質について考えるとき、先ずは製品の故障、すなわち、使用中に壊れたり、機能を失ったりすることを防ぐ必要があります。そのために、私たちは、技術者としての知見や経験をもとに想像力を働かせながら、開発段階で故障を引き起こす原因の発見に努めます。発見をサポートするツールとしてFMEAやDRBFMを活用し、その結果を各技術領域のレビューアが確認することで見逃しを防ぐことが重要です。開発に携わるエンジニアの不断の努力と整備されたデザインレビューのプロセスが、効果的で効率的な『未然防止』には不可欠です。

 隠れた問題を発見して対処する『未然防止』と並んで重要な取り組みがあります。それは、狙った性能を確実に達成することです。故障を未然に防いだとしても、性能がお客様の期待値に届かなければ、お客様はその製品に不満を持たれるでしょう。例えば、クルマの防振性能がお客様の期待値を満たさない、スマートフォンの反応速度がお客様の期待値に届かないといった問題は、故障というカテゴリーには当てはまりません。しかし、価格に見合った、あるいはそれ以上の性能を提供できなければ、製品は競争力を失い、やがては競争力に優れた製品に取って代わられます。

 お客様の満足を獲得するには、以下①~④を実施することで、品質や性能のばらつきをコントロールし、ばらつきの下限でも確実にお客様の期待値を超える製品を開発する必要があります。

①お客様の期待値を把握し、測定可能な製品特性に落とし込む
②物理モデルをもとに製品特性を部品特性に展開する
③設計のロバスト性を確保できるように部品特性の設計値を決める
④ロバスト性が充分でない部品特性を特定し、量産工程でのばらつき管理方法を決める


 日産自動車では、この一連の開発プロセスをQVC(Quality Variation Control)プロセスとして標準化し、新車開発プロセスに適用しています。本プロセスは、技術開発段階で性能設計のマスターを構築し、マスターを活用して効率的に製品開発を進めるという二階建ての開発プロセスです。

 お客様の期待値から設計、工程管理までつながる一連のプロセスは、概念的にはQFD(品質機能展開)に近いと感じるかもしれません。そこで、QVCプロセスのユニークな点について触れておきたいと思います。先ずは、製品特性を部品特性に展開する際に物理モデルを活用すること。次に、部品特性の中央値の決定には品質工学のパラメータ設計、量産工程で管理が必要な部品特性の特定には実験計画法を活用することです。このように、物理モデルと統計モデルを駆使して、性能の中央値とばらつきを定量的にコントロールすることが大きな特徴です。

 何れのステップも、簡単に実行できるものではありません。技術のメカニズムに対する深い考察と品質工学手法の理解が必要です。しかし、その先には、対象性能に関する物理モデルの構築と物理モデルをもとにしたロバスト設計手順の標準化、そして、標準化された手順に基づく効率的な性能設計、製品開発プロセスが待っています。

 本セミナーでは、QVCプロセス誕生の背景、基本的な考え方や実践方法について、具体的な事例や演習を織り込み、分かり易く解説します。

 なお、前段で触れた効果的で、効率的な『未然防止』に関する実践スキルを高めたい方には、『設計・開発における未然防止手法セミナー』を用意しておりますので、あわせてご検討ください。


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・DRレビューア育成のすすめ
 ~レビューアのマインドセットを変えて設計エンジニアの育成と
                     設計品質の向上に貢献しよう~
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・継続的な設計品質の向上に向けて
           「設計開発の未然防止手法QuickDRの実践事例に学ぶ」
 https://www.juse.or.jp/src/mailnews/detail.php?im_id=218

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Profile

奈良 敢也(なら かんや)

1987年 日産自動車株式会社入社。
以降、材料開発、安全部品設計、品質工学の社内展開、デザインレビューの仕組み構築に取り組む。
本セミナーで解説するQVCプロセスの立ち上げにも参画した。
現在、日産自動車株式会社デザインレビュー推進グループ 主管
2006年より、慶應義塾大学理工学部機械工学科 非常勤講師(統計解析学)

【受賞】
品質工学会発表賞 金賞・銀賞
American Supplier Institute Award
SAE World Congress Excellent Oral Presentation Award
【著書】
『日産自動車における未然防止手法Quick DR』、日科技連出版
『日産自動車における品質ばらつき抑制手法QVCプロセス』、日科技連出版
『製品開発のための統計解析学』、共立出版

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