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【受講レポート】「未然防止手法DRBFM実践講座」<2023年06月22日>

未然防止手法DRBFM実践講座~DRBFMのこころと実践的な進め方、書き方を学ぶ~」を受講しましたので、その内容と感想をまとめました。

 DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)は、その名の通りDR(設計審査)の一環としてトヨタで開発された手法で、現在では自動車業界を中心に多くの企業で活用されています。新製品の開発あるいは大きな設計変更の直後は、製造問題や使用段階での信頼性問題が多く発生します。それらを設計段階で未然防止するためにFMEA、FTAを含むDRが各社で行われています。特にFMEAは問題点の未然防止に効果があることを筆者も経験しています。FMEAの特徴は、製品を構成する全ての単体要素に分解してその故障モードを列挙し、製品への影響を評価するというところにあり、抜け落ちの少ない(無いと言い切れないので)“網羅的”な検証が出来るところにあります。一方、その網羅性ゆえに時間とコストと資料が膨大になるという欠点を併せ持つことから、運用面での難しさもありました。

 実際の設計現場では、限られた時間で「品質、原価、信頼性、性能・機能、生産性、保守性、サービス性等」多岐にわたる項目をDRしたくても現実的に不可能です。新製品の開発設計でもベースとなる製品あるいは技術があり、それを設計変更しているといえます。設計者がDRで検証しなければならないのが、設計変更に伴う“潜んでいる問題点”の摘出です。つまり「変更点・変化点に焦点を当てたFMEA」を実施することでDRの効率化と有効性の向上を図った手法がDRBFMです。

 DRBFMは、設計完了の直前(出図前)に、設計担当チームと社内外の専門家が英知を結集して行うもので、①“設計者が製造性、ばらつき、信頼性に関する問題を予測してどのような考え方で製品設計へ取込んでいるかを起票する部分”と、②“製造・検査・保守の人々が合同で検討して設計に反映すべき項目を起票する”という2つの部分から成ることも大きな特色です。FMEAが設計FMEAと工程FMEAと分けて行うことに対して、同時並行で進めていくという考え方です。

 講義は最初の1時間半でDRBFMの全体像と、その実施方法を実際の事例を使ってステップ毎に説明されます。実例をベースに講師が自分の経験(書き方・表現の仕方の注意点、困ったこと、悩んだこと等)を交えて解説をして下さることから、受講者にとって「効果のあるDRBFMを自分もすぐにつかえこなせそうだ」という気にさせました。講師の話し方がゆっくりと丁寧で分かりやすかったことも一因でした。

 DRBFMを効果的に実行するためには階層構想図、気づきシート、変更点・変化点の比較一覧表、製品(システム)機能の整理、V字モデル、機能着眼点一覧表、機能展開図、相互影響Matrix等の資料準備の重要性についても事例で説明されています。DRBFMのための資料をこれほど用意するのは大変な作業だと感じました。講義を聞くうちに設計者は、自分が意図している目的を達成するための設計をしているのだから、設計に必要な資料を集め、設計に関する自分の考えを整理しそれを記録として残すことで、後日の振り返り作業や、将来発生するトラブル対応をしやすくすることにつながると気づきました。つまり設計をする過程での必要なinput情報や、設計時の構想・思想・検討事項等を、そのつど整理しておけばそれがDRBFMの資料として活用できるわけです。DRBFMのためでなく、良い設計をするために、組織としてどのような資料を整理しながら設計を進めていけば良いかをルール化(組織としてシステム的に管理)することが重要だと気づかされました。FMEAを実施する際に「典型的な故障モード一覧」や「ストレス一覧」があると論議・検討がしやすくなりことから資料として開示しています。この資料は多くの企業の参考となる資料ですが、筆者は、この資料を基に自分たちの製品に合った独自の資料を構築することが重要だと感じました。

 後半はケーススタディとして頭髪用ドライヤーを題材にしたグループ演習が約4時間です。ドライヤーを構成している一部品の設計変更をテーマにして、DRBFMワークシート(前半の講義で説明済み)を使ってグループ作業が進められます。DRBFMワークシートは、大きく10個の項目(10列)から成立つ帳票です。その1項目(1列)毎に区切ってグループディスカッションが行われ、そのつど全員が集まって講師からアドバイスが与えられるというスタイルが繰り返されます。

 コロナ禍での研修のためZoomで行うディスカッションであり、しかも1項目にかけるディスカッション時間が短いことから、意見が出てくるか、記録が上手くとれるかなど心配でした。しかし、与えられた短い時間で、課題を論議し意見をまとめるという強い緊張感が働いたのか、その心配は危惧に終わりました。

 講師は、ワークシートの項目毎に目的を説明し、グループディスカッション後に全員を集めたメインセッションで、考え方、正しい書き方、良い書き方などを解説することで理解度を深める工夫をしていました。

 講義終了直後は、もっと時間があればよかったと思いましたが、今振り返ると、むしろ短い時間という制約条件が受講生に集中力をもたらしていて効果のあるセミナーだったと考えるようになりました。

 このDRBFMが日本の企業に広く普及し、より良い品質でより高い信頼性を持った製品が世に送り込まれることを期待します。



レポート執筆者:加瀬三千雄氏(元 日本電気株式会社)

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