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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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33.BCからの贈り物<2023年01月05日>

神戸大学大学院 海事科学研究科 教授
磯貝 恭史 (48BC・O修了)

 今から約40年前、大阪大学大学院基礎工学研究科数理教室の丘本(正)研究室在籍中、(財)日本科学技術連盟(略称:日科技連)主催の品質管理セミナーベーシックコース(BC)の書記に、丘本正先生の推薦で参加させて頂きました。確か48BC(大阪)だったと記憶しています。その当時は研究課題として多変量解析法を採りあげ、神戸大学教授 藤越康祝先生のご指導の下、検定統計量の挙動評価に必要な理論的で膨大な計算に追いかけられていた時期でした。

 そのためBCでの諸先生方の講義は、統計解析が品質管理の現場で、いかに上手く適用されているかを示されていて、実際のデータの数字が生き物のように感じられ、目の覚める思いで講義に聴き入ったものです。STや宿題の成績は散々なものでしたが、この時の書記の体験がきっかけとなり、日本の製造業で生じる品質管理上の統計的諸問題に、その後深く関わることになりました。

 BCを卒業して直ぐに大阪市立大学医学部に助手として採用されました。就職を決めるにあたっては、BCでたたき込まれた「データでものを考える」という姿勢が大きく影響していました。統計には理論面と適用面の両方の研究が必要なのだと感じていました。
 医学部に就職してからは、日科技連の各種研究会に入会を勧められ、講師として班別研究会に出講するように依頼されました。名称は定かではありませんが参加したのは「QC手法開発部会」という研究会で部会長は、電子技術総合研究所大阪支所長 納谷嘉信先生でした。丁度、QC手法開発部会では、「新QC七つ道具」のまとめに入っていて、活発な議論と多くの資料提供があり、納谷先生の情報交換の巧みな捌き方に驚かされました。私は、門前の小僧ということで、聴講生として出席を許されていました。

 初めて私が参加した班別研究会では、納谷先生が主任の班に入れて頂き、担当した研究員は、新日本製鐵(株)堺製鐵所のO氏でした。O氏の「鋼板の表面疵の低減」という研究テーマの内容は、「オイルショックで石油が高騰したため、鋼板の製造工程での製造条件を早急に見直し、新しい適切な条件の洗い出しを行いたい」というものでした。納谷先生はO氏の研究テーマが私の専門の多変量解析法にぴったりだということで、O氏を私に預けました。

 O氏の研究テーマは非常に困難なもので、BC開催中、O氏はデータの分析結果を携えて、度々、私の研究室を訪れ、夜遅くまで活発な議論を行いました。解決法が見つかったのは、BCの最終月に入った時期でした。納谷先生は、このときの経験を「品質」誌に投稿するように私に勧められ、原稿を丁寧にチェックしてくださいました。私としては、多変量解析法の中の重要な手法である重回帰分析の実地経験を積むことが出来、これ以後、納谷先生はご自分が主任をされる班別研究会には、必ず私を講師として呼ばれました。

 BCの班別研究会で鍛えられている頃、日科技連大阪事務所からのご紹介で、久保田鉄工(株)のK氏が私の研究室に相談に来られました。水道管路の孔食腐食の問題で、「埋設管の経年と周囲の土壌の特性とから孔食深さを予測したい」という課題でした。K氏と一緒に取り組んだこの課題の解決には二十年以上の歳月を要し、研究成果は2004年に米国の雑誌に掲載されました。私たちの論文の結果は後々も大きな反響を呼んだようで、2,3年前に欧米のある雑誌の編集長からファンレターをもらったり、ごく最近ではオーストラリアの研究者達から共同研究の打診があったりしました。

 品質管理と私との関わりを大ざっぱに紹介してきましたが、すべてのことがBCを起点にして始まっています。BCが私に与えてくれたものは(1)良き師、良き諸先輩との出会い、(2)良き友との出会い、(3)良き仕事との出会い、そして(4)日本的な品質管理の基本的な考え方が身につけられたことでした。このような素晴らしい機会を与えてくださった日科技連大阪事務所の諸氏には深く感謝しています。

 今後は、BCを大学院修士課程に単位互換の形で組み入れて、理工系の学生に学ばせることを、BCで是非、実現させたいと考えています。私自身がそうであったように、私の研究室の院生でBCを受講した学生達は皆、卒業後も彼らの職場での困難な仕事に、楽しみながら立ち向かっているように見えます。

 BCからの贈り物の中に「立ち向かう勇気」を追加いたしましょう。
 (注:関係者の所属は当時のものにしています。)

 
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