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SQC(統計とビッグデータ)
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椿 広計氏、永田 靖氏 対談:AI時代の管理技術のあり方を問う(上)<2017年09月22日>

◇解釈するのは人間
永田:最近、AI(人工知能)やIoT、ビッグデータなどが流行になっています。これらを従来の管理技術あるいは情報管理システムにどのように組む込むことができるかが課題となっています。統計センターにおられる椿先生からみて、この現状をどのように考えていますか。
椿:ある統計調査で、こんな話があります。計算機に人間の代わりに、商品の自動分類を行わせるシステムを開発しました。これにより、70%位はエキスパートが行う分類を再現できたのです。機械に認識が不可能なものは、これまで通りエキスパートに分類を行ってもらうようにしました。しかし、折角、自動分類システムを開発しても、このやり方では生産性が殆ど上がりませんでした。その理由は、一項目でも計算機がパターン認識できなかったら、エキスパートが原データである商品情報を全部読み直して、分類をしなおさなければならなかったからです。後工程のエキスパートに対して計算機がどんな情報を渡さなければならないかということを、読み切れていなかったのです。自分たちの作業の70%以上を計算機に任せられるので、仕事の効率と質は良くなると思ったのですが、そのように単純なものではなかったのです。
永田:なるほど。それと似たようなことは、いろいろなところで発生していますね。
椿:これからはAIが大切で、AIを導入すれば付加価値があると世の中では見られていますが、実際にAIの後始末をする人間のことまでは考えられていません。
永田:AIが常識では解釈しにくい解析結果を出してきたとき、その因果関係が本当に正しいかどうかは人が考えるしかありません。それを考えるためには、各技術者が統計的方法の応用力や品質管理の技術を養っておく必要がありますね。
椿:その通りです。人間のとった既存データからAIが学習しても、それは人間以上にはなりません。ですが、AI自ら、実験計画法のように、今までにないデータを創って、どのような点で何が起こるかということをシミュレーションするようになれば、人間を超える知識を獲得します。それをまた人間が解釈することでスパイラルアップしていくでしょう。そういう形なら別ですが、今のビッグデータの発想は、多くのデータを分析すれば人間よりAIが賢くなると思っている。それはほとんど幻想で、やはり「実験計画法」のようなセンスがなければ、AIは人間の能力を超え、あるいは人間に対して示唆的なことを示す状況にはなりません。
 
◇AIは人間の仕事を奪わない
永田:戦後に始まった日本の品質管理教育は、かなり体系化され、今に至っています。その中で、基本的な観点として「企業は人なり」ととらえ、人が企業を豊かにすると考えてきました。企業は誰のものかと考えたとき、まさに従業員のものであり、その地域のまわりの人たちのものという意識がわが国にはある。従業員を大事にする、力量をつけてあげる、良い仕事の機会を与える。わかるということは素晴らしいし、それで企業の問題が改善していったらよいと思っています。昨今、AIが人間の仕事を奪うということがいわれていますが、ある意味で「そうだな」と思える部分もあるのですが、AIが出してくるものを人が読み解くための教育が必要です。
 AIはとにかく強力だし、プロの囲碁棋士にも名人にも勝ってしまう。しかしながら、そのようなAIのoutputに対して、ブラックボックスにならないように、「それは因果関係が逆」とか「これは擬似相関」というように、人が判断することが必要です。そのために、技術者は、因果関係が存在するのかどうかをいつも考える癖をつけておかなければなりません。
椿:ビッグデータの時代なので、それに対応できる人材を供給するために、政府は予算をつけています。しかし、どのようなことができる人が必要なのか、どのようなことを教えればいいのかが、必ずしも明確になっていないことが問題だと感じています。
永田:ビッグデータから情報を得ていろいろな活動に結び付けましょうというのは、一つの専門職として非常にわかりやすいですね。一方、ビッグデータを品質管理の枠組みで考えると、必ずしもビッグデータからどういう情報が得られるかというアルゴリズムに明るくない人でも、品質管理の仕事はできると思います。
 ビッグデータの先進企業を見にいったことがあるのですが、そのとき、ビッグデータ解析を行う部署は品質保証部、品質管理部ではなく、情報関連の部門でした。情報関連部門では必ずしも品質管理やPDCAの考え方まで理解が深いわけではないのですが、データの入出力のアルゴリズムやプロセスの情報システムには精通しています。それを品質管理活動に結び付けていくことが、これからは求められています。そのためには我田引水ですがSQC(Statistical Quality Control:統計的品質管理)の重要性がますます高まるという印象をもちました。
 
◇品質管理部門と情報部門との連携
永田:会社の中で、品質保証や問題解決を推進する部署とITやビッグデータ解析をしている部署が違うので、その部署間の意思疎通を図らなければならないという課題があります。
椿:本来、品質保証や品質マネジメントをやっている方々は、問題解決の標準シナリオとか困難な問題で何が起きているかという問題点の勘所みたいなところに関する体系をもっておられた。この問題解決プロセスのモデルをメタモデルと呼びたいのです。これからデータ分析や予測分析で社会に経済的価値を実現しようとする人たちは、このメタモデルの下で活動しなければ、本当はおかしい。何かをアルゴリズムを適用したら何か価値が出てくるという発想では、ビジネスは動かないと思います。
永田:現在、そしてこれから、品質保証、品質管理の部門と、いわゆる先端のAIなどの部門がどれだけ連携しているのかが、あまり見えてきません。
椿:何となくブームでやっているAIよりは、問題解決のどのフェーズで、何を使って何をするかというシナリオ自体を理解する能力は、品質管理をやっている人たちの方が強いと思います。
永田:とはいえ、今後、企業の改善問題に関しては、実証データをインプットするとAIが対処のシナリオを提案してくるということが考えられるのではないですか?
椿:体系化すればするほど、そういう行為はAI的なことになってくるのでしょう。でも人間のことは人間がやるのがいいと思います。
 
◇多くの経済活動は人間が相手
永田:人間相手というところは、AIは苦手かもしれません。
椿:ほとんどの産業活動では、人間に対して働きかけるところで価値が出てくる時代になりました。AIが「この人はこういう人で、こういうことに反応した」と現状把握をしたところでAIがその人に語りかけて何かをするのではなく、人が人を動かすわけです。
永田:そういう意味で品質管理教育は変わらなければいけないと思いますが、今の基礎的な部分の重要性には変わりはないと考えてよろしいでしょうか。
椿:もちろんQCストーリーの普遍性については疑いのないところです。日本の品質管理については日本発のものがたくさんあり、海外でも取り入れられて、いろいろな経営の先生たちが理論化し、また日本に逆輸入するということが行われてきました。
永田:確かに、今、異常検知が脚光を浴びていますが、品質管理では管理図を書いて異常が出たら徹底的に追求しましょうということは昔からやっていました。
椿:日本の品質管理では、異常検知では悪いほうの異常だけではなく、良いほうの異常でもアクションをとっています。世界の異常検知はまだ、まだ悪いほうの異常ばかり考え、良くなるほうの異常は考えていません。
永田:そうですね。管理図では良い方向の管理はずれでも異常と考え、改善のヒントにしなさいと指南してきました。これは、今考えると、先人のすごい考え方だったのかもしれません。AIによって予測はより精度よくできるようになったとしても、介入する、すなわち今と違う状況に変化させるためには、AIでは難しいのではないでしょうか。
椿:新技術とか新サービスとか、人に対して何か働きかけるというアクティブなことをやることに対して、AIはまだまだだと思います。単にAI同士が交流して出てきた受動的な情報ではなく、その場で人に働きかけて何かになる。それは重要ですがビッグデータとは少し違う側面だと思っています。((下)に続く)

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Profile

永田 靖(写真右)
早稲田大学 創造理工学部
経営システム工学科 教授
1985年 大阪大学大学院卒業後、熊本大学講師、岡山大学助教授、教授を経て1999年から 現職。
現在、応用統計学会会長、一般社団法人日本品質管理学会理事、デミング賞委員会委員、日科技連 品質管理セミナーベーシックコース 運営委員・東京幹事長 など。


椿 広計(写真左)
独立行政法人 統計センター 理事長
筑波大学名誉教授、統計数理研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授。
1982年 東京大学大学院卒業後、筑波大学大学院経営政策科学研究科助教授,同ビジネス科学研究科教授、統計数理研究所副所長,教授を経て2015年から 現職。一般社団法人日本品質管理学会会長、日科技連 多変量解析法セミナー運営委員 など

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