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今さら訊けない『DL(ディープラーニング)』とは<2017年04月25日>

(※当文章は、2016年4月1日にご寄稿いただいたものです。)                          
 2016年3月1~15日の間、韓国ソウルにおいて、人工知能と人間(名人)との囲碁の対局があった。全5戦中、4対1で人工知能が勝利し、この一部始終はYouTubeで生中継され、約10万人がこの歴史的瞬間を目撃したとのことである。既にチェス、将棋は人工知能が勝利していたが、その複雑さ故に、囲碁の逆転は10年先になると予想されていた。

 囲碁界のトップ棋士・李世ドル九段を打ち負かした人工知能はディープマインド社(https://deepmind.com/)が開発した囲碁プログラムAlphaGoである。ディープマインド社は、2015年にfacebookに競り勝ったGoogleが異例の4億ドルで買収した英国のベンチャー企業である。同社は2014年にAtariの複数のPCゲームで人間より良い得点を出したとの論文をnature誌に発表し世間を驚かせた。

 各種報道されているので、詳細は再説しないが、AlphaGo は『DL(ディープラーニング)』と『強化学習』という2つの技術の組合せで実現されている。

 『DL』はNN(ニューラルネットワーク)の一形態である。 私自身1980年代に、RumelhartのBack-Propagationに感動し当時最速のDEC社ミニコンを駆使しセメント焼成炉の異常検知にNNを応用することにトライした。しかし、計算すれどもすれども、初期値によって結果がまったく異なるという苦しみと挫折を嫌というほど味わった。DLはNNのこの課題を、autoencorderで初期値を与えること(だけではないが)で解決した。一方の『強化学習』はロボット技術として、制御技術と動的計画法に基礎を置いて発展して来たものである。

 この2つの技術の組合せを私流に、誤解と不正確さを恐れずに例えると次のようになる。海岸線のみで全く内陸の地形図を与えられない状態で本州に上陸し最短で富士山に到達せよという課題が与えられたとしよう。確実に最高峰を見つけるために、総舐めする戦略で下関に上陸し、逐次山登り(勾配法で)探索を開始すると、秋吉台あたりで道に迷った状態が1980年代のNNの失敗といえる。それではということで、海岸線をランダムに選択し、仮に東京湾から上陸したとしても筑波山に到達し身動きが取れなくなるのがせいぜいである。

 DLは発想を異にし、車載GPSのデータから解析し始める。東日本震災時に通行可能な道路情報を実動車のGPSデータを使ってカーナビに提供したことがビックデータの成功活用事例として挙げられている。まずは存在しても通れない空間(物理的化学的に有り得ない選択肢)は初めから探索対象としない。次に、一般道から国道級、高速道路級へと、基本的な移動ルートを「特徴抽出」という形で段階的に集約する。それができたら、初めて標高情報を合体させ、最も高い高速道路の地点から国道に入り、一般道を通って富士山に到達する。ここまでが前段である。富士山は見つかった。

  次に、富士山から各分岐点までの距離を計算し、「富士山まで何キロ」と表示をつけながら、各海岸線まで辿り着く。その中で一番距離の短い海岸線から、先ほどの表示の最短ルートを辿って行けば、所期課題を達成できるという仕掛けである。
 
 実問題で、DLの画像解析に用いられているコンボリューション(combolution)は、究極の秘話性を有すると言われる暗号化手法:スペクトラル拡散通信の核技術である。また、後半の動的計画法は1940年代に対独、対日戦に勝利するため、米国ロスアラモス研究所で開発されたOR(オペレーションズリサーチ)手法の一つとしてベルマンが開発した。この70年以上も前に確立された軍事技術が、計算機の処理能力(CPU、ネットワーク)の格段の進歩を背景に、今度は人間の知能を打ち負かすのに使われている。大変興味深いが、ある意味必然だったとも言える。
 
 受け売りだが、DL研究で著名な創業者が「対立に関すること、つまり戦略が重要になるようなゲームには何にでも適用することができる」。「これには戦争やビジネス、金融取引も含まれる」と指摘しているという。プレイ中の錦織選手の脳髄中にデカルトが居ないように、ミサイル迎撃に運動方程式は最早不要ということなのだろう。恐ろしい時代になったものである。知能労働者の多くも没落を開始し、富の集中が更に加速する時代が目の前に迫っている。
 
 幸か不幸か、年齢的に私はそのような社会を見ずに済みそうだが、一般放送枠を潰してまで実況された冒頭の対戦を見た韓国の子供たちは、日本で言えば羽生名人のような絶対的カリスマが連日敗北する姿を目撃し、自分たちが成長して行く未来についてのイメージを直感的に持てたに違いない。

 足元の製造の現場でも、競合他社にアルゴリズムとパラメータを先に特許で押さえられた場合のダメージは計り知れず、あらゆる技術分野で企業や国家の存亡も決めかねない。
 
 幸い、日本においては、機械学習、DLなどについて一連の出版が企画され、関連技術を自主的に解説しソースコードも公開してくれる集団も存在する。これら諸兄の活動を大いに評価したい。しかし、それにも拘わらず、米国他との情報格差は質量ともに圧倒的なものがある。
 
 DLの開発環境や新しいアルゴリズムが2ヶ月毎に発表されるというスピードの速さもあり、これらの動きに対応した、特に製造業に向けた教育環境が組織的に整えられることを期待したい。


 

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Profile

     相澤 健実 氏
   (あいざわ たけみ)
東京大学 工学部 工業化学科卒業
博士(工学)、修士(経営学)
太平洋セメント(株) 情報システム部長を経て、現在、東京情報大学講師。
ISO 9001 主任審査員、
ISO 14001 主任審査員、
ISO/IEC 27001 主任審査員、
日本科学技術連盟 品質管理セミナーベーシックコース 東京幹事、
実験計画法セミナー運営委員、
モノづくりにおける問題解決のためのデータサイエンス設計コース講師。

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