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SQC(統計とビッグデータ)
SQC

椿広計氏、小野田崇氏 対談:AI+ビッグデータを活用した品質管理の課題<2018年11月21日>

 現在、産業界においてAI(人工知能)とビッグデータの活用が加速している。日本産業界において品質経営を牽引してきた日本科学技術連盟(以下、日科技連)は、「AI+ビッグデータを活用した品質管理の課題」をテーマに、日本品質管理学会「製造業のためのビッグデータの解析あり方研究会」主査である青山学院大学教授の小野田崇氏と、独立行政法人統計センター 理事長である椿 広計氏にご対談いただき、幅広い観点からお話を伺った。

対 談:独立行政法人 統計センター 理事長 椿 広計 氏、青山学院大学 教授 小野田 崇 氏
聞き手:一般財団法人 日本科学技術連盟 矢口 里美、鈴木 健二

◇日本的AIの活用とその課題
小野田:日本は、自分達が進んでいると思っていても、オリンピックが間近に迫ったこの時期に、フリーで使えるWi-Fiがとても少ないと海外からの観光客に言われています。情報化社会にあって、このように遅れた国はないと思います。ものづくりに目を転じても、今行っているようなタイムスパンをかけた品質管理は難しくなるでしょう。従来の品質管理のやり方を変える必要があります。
椿:そうですね。これからAIや機械学習が現場に入ると、品質管理や改善活動が迅速化すると思われます。しかし、現場の自律的な活動がAIに完全に置き換わると大変危険だと情報処理学会の先生がおっしゃっていました。60年以上にわたる、データに基づく改善の文化は維持したいですね。
小野田:そうですね。日本は独特の改善の文化をもっていますが、これは他国には見られないものです。
椿:1990年代のアメリカでは、日本の改善の文化は奇跡的だと評価されました。欧米のシックスシグマでも改善活動は行われていますが、職制の中でプロがやっている。日本では現場の人達が当たり前に改善を行っています。
小野田:それは日本の現場力の支えとなっていますが、現場の人達へ自然に機械学習が浸透するのを待っていては遅いと思います。
椿:現場の人達が、機械学習の理論は分からなくとも、ツールとして使って改善を行う文化を作れると良いと思います。その方向に行けば、日本の強みが活かされるはずです。
小野田:そこで重要なのは、機械学習が従来のツールではないという意識が持てるかどうかだと思います。従来のツールの延長線上で機械学習を改善に使われるのが一番不安です。
椿:問題解決を迅速化するには、人間が行ってきたフェーズの一部をAIに置き換える必要があります。改善はプロセスが重要ですが、AIは、そこがブラックボックス。「人の代わりにAIができること」の現場への周知徹底と理解のうえで、機械学習を活用する必要があります。確かにこれまでのスピート感とは違います。
小野田:このスピードに遅れると、じり貧になってしまうと思います。また、現場には様々な知識が蓄積されていると思いますが、機械学習に見合うだけのデータを採っているかどうかも重要です。
椿:恐らく今の品質管理活動では、現場のデータも昔のテンポではなく、すごい勢いで大量にあがってくると思います。古典的なQCサークル活動(小集団改善
活動)の中では対応しきれていないかもしれません。
小野田:目的のない単なるビックデータがあがってくるとすれ
ば、それは意味がありません。「良い/悪い」程度の簡単なラベ
ルでも良いのですが、「このデータならこうする」という何かし
らの目的が必要です。AIに学習させるためのデータが必要なの
です。
椿:工程データの場合は、統計的管理状態を超えた場合に
アラームを鳴らすという使用目的があります。センサーが普及
する前から、自動化できれば管理図は大化けするかもしれない
と言われていました。
小野田:結局、機械学習を使って嬉しい点は、機械が人の代わりに見たり、聞いたりできるようになることだと思います。その部分が強いのであって、他は基本的に統計に勝てません。従来の手法に良くできた分析フォームがあるので、「なぜ/何を」を分析したい時には、統計はとても良く答えてくれます。そこをAIに求めても、まだまだ難しいです。
 
◇「見る」「聞く」は機械に行わせる
椿:先生は機械学習を厳格に考えていらっしゃいますが、機械学習を宣伝する方の中には、統計モデルを含んで機械学習であると捉えている人もいるようです。
小野田:私は、根本的に機械学習と従来の統計手法は使用目的が違うと考えています。
感覚的な問題に対してはいいのですが、要因を知りたい問題に対しては、機械学習は統計に敵わないと思います。要因を知らずに、たとえブラックボックスであっても、ただ目的が達成できれば良いという問題に対しては、機械学習の方が優れています。
椿:統計を利用する場合、複雑なものになればなる程、再現性があるかどうかの判断が難しくなります。それに対して機械学習は、データさえきちんとしていれば答えを出してくれます。そういった意味では、統計とは正反対に位置づけられるかもしれませんね。
小野田:両者の違いをイメージすると、仮説を立てながら人が分かるようにデータを分析する技術として統計があり、その一方で、人が過程を分からなくても良いから結果を出す技術が機械学習だと思います。たとえば、「見る」「聞く」には理由が要りません。
聞き手:確かにそうですね。今後は、品質管理においても統計と機械学習を使い分けていく事になるのでしょうか。
椿:そうだと思います。膨大な負荷がかかっている人の作業を機械に置き換え替えることが重要になってきます。
 
◇ディープラーニングが何でもできると考えるのは間違い
小野田:また、基本的にディープラーニングという機械学習手法は、大量のデータを分析して初めて意味をもちます。網羅性があるビッグデータの中に答えがあれば、AIが一度データから学習したら答えが出ます。ビッグデータの外に出たサンプルデータについては分かりませんが、全データが得られているのであれば、その中から答えを見つけられます。Alpha Goは、囲碁の全ての手を学習しました。
椿:AIによる学習がとてもうまくいった例ですね。内部がブラックボックスですが、チューニングされたモデルだと思います。むしろ人間が機械に学ぶ世界ですね。
小野田:それで良いと思います。チェスではコンピューターと人間が組んで対戦するという、従来と違う形が生まれました。Alpha Goは、碁という限られた領域で人を凌駕することを示したわけですが、だからと言ってディープラーニングが何でもできると考えるのは大きな間違いです。
椿:経営判断のようなものは、何を最適化するかが決まっていません。例えば、利益を最大化するコストマネジメントに限定した経営判断をAIが下すのは危険です。品質も要素は様々あり、解が一意ではないので、まだAIには難しい領域です。
小野田:AIは、一意の価値に向かって突っ走るような学習をしていますので、それについては正解を導きだします。ところが、違う価値について学習しなさいと言われると、その時点では赤ん坊よりも未熟な判断を下しますので、それを正しいと考えるのは危険です。
聞き手:万人共通の正解があるようなものについては、AIの判断が優れているということですね。
小野田:将棋や囲碁といったゲームの世界では、ルールに則った勝ち負けがありますが、「売れるものを出してくれ」といった漠然とした要求に対して答えを導き出すのはAIにとって難しいでしょうね。
椿:それは顧客からの情報を統計で分析して実現するのではなく、顧客に対して能動的に働きかけるコミュニケーションの技術が重要だと思います。
小野田:統計も機械学習もデータがあることが前提ですが、目指している目的が少し異なります。従来の品質管理は、データからその元となる変化を見てアクションをとるスタイルだった思います。今後は、先ほど述べたように、「見る」「聞く」を機械に置き換えるのが効率的だと思います。そのために、わざわざ人を育てる必要がなくなり、海外進出なども楽になると思います。データを渡すだけで良いのですから。
 
◇目的によるSQC(統計的品質管理)とAIの使いわけ
聞き手:従来のSQCでは、データから因果関係を把握することが重要とされています。そこでお二方にお尋ねしたいのですが、今後AIの活用が進むと、従来は人間が行っていた因果関係の分析も変わっていくのでしょうか。
小野田:これは椿先生にお尋ねしたいのですが、統計では完全に因果関係が分かるのでしょうか。
椿:統計だけでは因果関係は分かりません。因果関係を証明する実験が必要です。存在するデータからの学習だけでは因果関係を分析できないでしょうね。
小野田:因果関係を明らかにするのは難しいと思います。統計的に相関があるからといって因果関係があるとは言えません。
椿:因果推論に基づいてランダマイズな実験を行うのが統計のオーソドックスな方法です。
 一方、観察データから相関関係が確認され、因果関係の可能
 性が強いとの判断に基づいてアクションを取る方法もあると
 思います。産業界では、両方のやり方を知っておいて、
 場面に応じてどちらが経済的かなど適切に使い分けるべき
 だと思います。100パーセントの根拠でもって動いていると
 競争に負ける様な場合には、50~70パーセントの証拠で試し
 てみて、再現性を確認するのが良いかもしれません。
 小野田:因果関係を明らかにするには時間がかかりますが、
 その間待っているわけにはいきません。機械学習で先行して
 いいと思います。最終的にノウハウを蓄積したい場合には、
 別途、様々な方法を用いて因果関係を見つけるのでしょうが、
 それでは組織として後れを取る可能性もあります。初めはブラックボックスで先行してもいいという気がします。
聞き手:これからの技術者は、場面に応じて機械学習と統計の両方を使い分けができなければいけないのですね。
椿:適用範囲をどう考えるか、どのような場面でどちらを使うかの判断は、技術者として重要になってきます。
 
◇機械学習と融合した品質管理教育
小野田:教育の仕方も、機械学習を学んできた方を対象とするか、品質管理を学んできた方を対象とするかによっても随分違うと思います。
椿:QCストーリーには、異常検知をはじめ様々な考え方が含まれています。品質管理の初等教育は健全だと思いますが、新しい、使えるツールはどんどん使う方向に舵を切る必要があります。
小野田:ただしマニュアルを読まないような人が新しいツールに飛びつくのは危険です。
椿:機械学習の機能が分かっている必要がありますね。我々は、テレビを観る時やパソコンを使う時に機械の中身まで理解はしていませんが、使い方は間違えません。管理技術と機械学習も、ツールの使い方を間違えないという教育に変えていく必要があるのではないでしょうか。
小野田:テレビは良い例だと思います。地上デジタル放送に変わったとしても、従来のアナログ方式との違いを理解しなくともテレビは見られますが、放送局に割り振られたチャンネルの数字は伝える必要があるわけです。
聞き手:本日、お二方のご対談内容をお聴きして、テーマにある「品質管理の課題」がだいぶ見えて来たと思います。今後、機械学習と融合した品質管理教育を日本の強みにしていきたいです。
椿:人づくりを日本の強みとして品質管理を再構築したいですね。
小野田:日本は、ディープラーニングが苦手とするところを、実は知見として相当持っているのではないかと思います。長年にわたる品質管理の蓄積において、難解な問題を明らかにした例が幾つもあります。そのような、データが沢山取れない様な領域のノウハウを、機械学習に如何に活かすかという手法は世界的にもまだありません。そのような手法が構築できれば、日本は世界的な競争力を獲得できるかもしれません。
聞き手:本日は貴重なお話を伺うことができました。誠に有難うございました。

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Profile

椿 広計(つばき ひろえ)
 写真:右

独立行政法人 統計センター 理事長
筑波大学名誉教授、統計数理研究所名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授

1982年
 東京大学大学院工学系研究科
 計数工学専攻修士課程修了。
 筑波大学大学院経営政策科学
 研究科助教授,同ビジネス科学
 研究科教授、統計数理研究所
 副所長,教授を経て2015年から
  現職。
一般社団法人日本品質管理学会元会長、日本学術会議連携会員 公益財団法人日本適合性認定協会監理パネル、ISO /TC 69/ SC8 委員長、日科技連 多変量解析法セミナー運営委員 など

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小野田 崇(おのだ たかし)
 写真:左

1988年4月~2016年3月
 電力中央研究所
1997年9月~1998年9月
 GMD FIRST 客員研究員
2007年4月~2012年3月
 東京工業大学大学院・知能シス
 テム専攻・連携教授
2016年4月~
 青山学院大学・理工学部・経営シ
 ステム工学・教授、JSQC「製造
 業のためのビックデータの解析
 あり方研究会」主査

小野田 崇(著),サポートベクターマシン(知の科学シリーズ),オーム社,2007
小野田 崇(訳),「4章線形識別モデル」元田 浩,栗田 多喜夫,樋口 知之,松本 裕治,村田 昇(監訳),「パターン認識と機械学習 上」,Springer,2007

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