第4年度 リスクアセスメント実践研究会
研究対象 I 製品等の開発段階におけるリスクアセスメント
製品の開発段階における実践的リスクアセスメントに関する調査・研究を行います。
例えば、自社のリスクアセスメント手法のブラシュアップであるとか、あるいは全く新しいカテゴリー製品のリスクアセスメントの実践であるとか、開発段階におけるリスクアセスメントに関することであれば、全て研究の対象になります。
下図に示すPSPTA法も、この研究会で大きく成長・発展させることができた手法の一つです。
メーカーの設計や品質保証に、開発段階のリスクアセスメントに関する知識が必要であることは言うまでもありませんが、流通事業者や検査機関の方等、製品の開発に直接携わらないという方も、ステークホルダーの一員として開発段階のリスクアセスメントに関する知識を有することは、自社の優位性を築く上で極めて有用なものになるでしょう。
開発段階のリスクアセスメントの推進を担っている方、自社のリスクアセスメント手法をブラシュアップしたい方、PSPTA 法、HHA法等の実践的リスクアセスメント手法をマスターしたい方、リスクアセスメントにおけるリスク低減値を担保する試験法を作成したい方、調達品のリスクアセスメントを行いたい方、ご自分の身の回りのリスクアセスメントを行ってみたい方等、研究テーマには事欠きません。
更には、近年、人と同じ空間を自律して動作するパーソナルケアロボットが脚光をあびていますが、そのリスクについても、この研究会で取り扱っていきます。
研究対象II 事故情報に基づく既販品のリスクアセスメントと市場措置判断
官庁や公的機関から公表されている製品事故情報や、企業のリコール(自主回収・改修)情報を用いて、製品事故を未然防止するための研究を行います。
事故情報の分析結果から、リスクアセスメントがどうあるべきかを、プロセスを遡って検証していくことになりますので、リスクアセスメントの全体を俯瞰して見ることができ、普段リスクアセスメントの業務に携わっていない方にとっても、会社(または団体)内で、その成果や知見を広げられると考えております。
また、公表されている関連情報や各種統計情報などを利用することが多く、その入手方法、分析及び評価手法の習得にも役立つと考えます。
以下に代表的な研究事例をご紹介します。
1)実際に起きた事案から、許容されるリスクレベルか、リスク低減が必要か等、開発段階でのリスクアセスメントの妥当性
を探る。
2)実際に起きた事案から、製品事故を未然防止するための最適なリスクファインディング方策を探る。
3)実際に起きた事案から、傾向分析を行い、未然防止に繋げるためのフィードバックのやり方を探る。
4)R-Mapで導出した結果と、実際にリコールが実施された(または実施されなかった)現状とのギャップを分析し、あるべ
きリコール判断基準を探る。
5)リスク評価を行う際、R-Mapに、バイアス(偏向)という要素を加味し、客観的に判断するやり方を探る。
バイアスとは、被害者の属性や原因によって、リスクの程度を変化させるという考え方で、例えば、被害者が幼児の
場合、防衛能力や怪我の程度は成人と異なるので、危害を重く捉える。
研究対象III IoT時代の安全リスクアセスメント
現代の製品の多くは、ソフトウェアと無縁ではいられません。今までは、ソフトウェアに頼らないで 安全性を作りこむことを主眼にモノづくりを進めてきたメーカーも多いと思いますが、飛行機や鉄道などでは、ソフトウェアが人間をバックアップし、より安全なシステムを構築しています。ソフトウェア を安全要素の一環に組み込むためにはどうしたらよいのでしょうか?
昨今のIoT技術の急速な進化により、身の回りの多種多様な製品が、ネットワークを通じて有機的に 結びつき、簡単・便利に利用できる時代になってきました。例えば、今やスマートフォンは、IoTの指令塔として、「あれば便利」から「無いと不便」「無いことは考えられない」存在へと変わってきています。
一方で、ソフトウェアの脆弱性などの問題により、これまででは考えられなかったようなリスクが顕在化し、個人情報の漏洩やシステムの長時間にわたる停止といった危害が発生しています。脆弱性を事前 に根絶することは困難なまま、IoT化の流れはさらに加速しています。
2020年度研究活動では、ロボット掃除機を例として、ソフトウェアの脆弱性評価基準であるCVSS を学び、安全リスクアセスメントへの組み込みを試みました。ハードウェア技術者にはなじみの少ないものですが、1 or 0 になりがちなソフトウェアの不具合についても、リスクを定量化していけることが判りました。
このような、ソフトウェアを含めたシステムとしての製品安全はどのように考えていけばいいのか、 また、製品を使っていただくお客様と、どのようにリスクについてコミュニケーションを取ればいいの か、皆さんとともに考えていきたいと思います。
研究対象Ⅳ リスクアセスメントを通じて医療・健康を考える
日本においては、健康に不安を抱く人が増加の一途ですが、この状況を打開する試みの一つにPSPTAまたはHHAによるリスクアセスメントがあると考えます。
リスクアセスメントではまず危害シナリオを立て、次にそのシナリオの途中で出現する状態を時時系列に同定します。 そして同定した各状態に対する防止策を施し安全を達成しますが、ここで重要なポイントは、同定する状態は「望ましくない状態」でなければならないということです。
人の健康のリスクアセスメントを考えてみたとき、アセスメントのプロセスは同じになるでしょう。然しながら、人間の体は生命の起源をさかのぼれば、3.8億年を経て高度に発達し自律神経等の支配によって高度にシステム化されたものであり、例えば痛みやかゆみといった嫌な生理反応(=出現状態)も、場合によっては(危害シナリオによっては)望ましい状態のものかもしれません。
どちらの状態として捉えるか、それが対処内容の決定根拠になることを考えれば、極めて重要であるのは明白であり、リスクアセスメントはこの同定を見える化し、更には対処策についても合理的に示すツールになることが期待されます。
今健康な人も健康に不安がある人も、自分の生活習慣をリスクアセスメントしてみると、きっと、新しい視点で自分の体を見つめなおすきっかけになると確信しています。