17.「ノウハウが貯まらないPDCAはおかしい」<2016年09月29日>
早稲田大学 名誉教授 池澤 辰夫(9BC修了)
私は、ある市役所のTQMの指導をして7年目になる。
税金の滞納額のパレート図を描いてもらうと、教科書どおりの模範的なパレート図が出来る。長期高額滞納額500万円以上の人数は100人以下で少ないが、合計金額はトップになる。
指導を始めた年から、この重点志向で、「500万円以上の長期高額滞納者」の重点攻撃をお願いしたが、過去2代の課長は、取り合わなかった。長期高額滞納者の徴収はごく一部のベテランが出来る程度で、しかも奥の手は、「差押え」だからである。しかし、3代目の課長は、積極的な徴収活動を、過去2年進めてきた。しかし、徴収率は上がらなかった。そこで、今年は、重点方針として、「長期繰越し滞納者」の重点攻撃をすると言い出した。
ところで、私は、元来、PDCAのサイクルは、指導して3年目くらいから、指導することにしている。誰でも、「PDCA」を聞いた瞬間に分かった気がするが、実は永遠の課題と言ってよいほど、難しいのである。従って3年目になった課長に、PDCAのサイクルを毎月廻すことをお願いした。すなわち、徴収がうまくゆかなかった原因を追究して財産(ノウハウ)を貯めるようにお願いした。
昔から(1960年以来)の私の持論である
「管理=反省のしかた」
の問題である。しかし、ただ、反省していれば良いのではない。「反省のしかた」すなわち「しかた」のレベルアップである。これには、「原因の追究のしかた」のレベルアップも伴うから難しい。この「反省のしかた」で、「ノウハウ」が貯まるか、どうかの分かれ道になる。「ノウハウ」が貯まらなければ、スパイラルアップしないで、同じ平面を堂々巡りするだけである。犯罪を追う刑事は、なぜ逮捕が遅れたか、3ヶ月後でなく、3日目に逮捕できたはず、と原因を追究することによって「ノウハウ」は貯まる。
管理の考え方を本当に理解している人は、絶望的に少ないというのが私の持論である。「スパイラルアップ」と簡単にいうが、あの「スパイラルアップの尺度」が、「ノウハウ」(財産)であることを知っている人も少ない。「売り上げ、利益」では、右肩上がりばかりには上昇しない。「ノウハウが貯まっていなければ、PDCAのサイクルの回し方がおかしい」という私の持論が出てくる所以である。
従って、私は課長に「B,Cランクの部下だけでなくAランクの部下もランクアップ」するように人材育成の目標を立てることをお願いした。「プロセスを良くすれば、結果(徴収率)がついて来る」のがTQMの格言だからである。
「徴収率を上げなさい」と部下の尻をたたくのが、「徴収率の管理」だと思っている管理者が多い。これでは、部下がたまったものではない。「楽をして結果を良くする」のが「管理」である。そのためには、ノウハウを貯めながら、部下のレベルアップをしてゆく「目標」が、今ひとつ必要になる。
すなわち、「結果(徴収率)の目標」だけでなく、「プロセスの目標」の2つの目標である。しかし、2つの目標を追いかける必要はない。なぜなら、プロセスの目標を達成すれば、自ずから、結果(徴収率)は良くなるのである。プロセス管理の重要性は、ベ?シック・コースでも習われたとおりである。しかし、頭で瞬時に理解したつもりでも、体得するのには時間がかかる。
私は、「問題解決型QCストーリー」を提唱し、そしてリニュアル化しながら50年になるが、いまだに「PDCA」は、永遠の課題だと思っている。