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BC-News(BC講師からのメッセージ)
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15.「PDCAとSDCA」<2016年09月28日>

玉川大学 経営学部 国際経営学科 教授 大藤 正 
 
 
私がベーシック・コースを受けた時期を覚えていませんが,同様のコースが日本規格協会にあり,26歳の時に,そちらを先に受講しました.このコースで優等生にならなければ大学には残れないという条件付きでした. 
 
品質管理については,大学3年生の時に「夏期学外工場実習」という必須の科目があり,夏期休暇中の1カ月間の現場体験で興味を持ち,大学4年生の時の実習で,品質管理の分野で生きていくことを決めました. 
 
大学4年生の卒業論文ではワイブル解析を用いた冶工具の寿命解析によって,冶工具の寿命値を大幅に改善でき,品質管理の分野に入り込んで行きました.品質管理の研究・普及活動は1970年からですから40年間となりますが,最近危惧していることを記したいと思います. 
 
1.PDCAとSDCA 
PDCAのサイクルは管理のサイクルとして定着しつつありますが,PDCAのサイクルにはSDCAのサイクルが含められていることを認識している人が少なくなっているように思います.SDCAのSとは標準のことです.ですから管理を始める最初のPDCAのPはSとなります. 
 
作業の標準や検査の基準など,標準を定めて標準どおりに作業し,一定の品質が確保できるかをチェックし,標準の改訂や作業自体の改訂をして,維持すべき標準が守られているかについての管理がSDCAのサイクルによる管理です. 
 
SDCAとPDCAは維持の管理と改善の管理に対応しており,品質管理活動にはこの両者が繰り返される必要があります.しかしながら,最近では改善活動に終始し,維持の活動が忘れ去られている感があります. 
 
このことは,標準化月間と品質月間との関係に関連しますが,作業標準や技術標準などについて棚卸をして,各標準が守られているかを定期的にチェックする必要があります.この活動によって,改善すべき標準が見出されます.標準を変えないという維持と標準を変えるという改善は相矛盾する活動ではありますが, SDCAのサイクルとPDCAのサイクルを交互に回す活動がQC活動です.この関係を図に示すと以下のようになります. 
 

 
SDCA
のサイクルと
PDCA
のサイクル
 
 
2.品質月間と標準化月間 
1960年に第1回目の品質月間活動が始められてから,2009年の11月で第50回を迎えました.品質月間は一般の人達にも品質の重要性を理解して頂こうとの趣旨もありました.この品質月間活動を積み重ねたことによって,日本人は品質に重要な価値があることを認識しました. 
 
この品質意識が高い日本人が作るものは高品質になります.そして同じ品質の物であれば,顧客は廉価な物を求めるようになり,価格戦争に突入してコスト低減活動に終始してしまったのではないでしょうか.その結果,安くていい物を提供できるようになりましたが,顧客が品質第一ではなく,価格の安い物に着目するようになってしまったのだと思います.さらに,品質が良くなくても安いのだから仕方ないという感覚になってしまったのではないでしょうか. 
 
この意識の変化が日本の経済に多大な影響を及ぼしていると思います.日本に品質管理が導入されてから還暦を迎える年になりましたが,もう一度,品質の価値を見直す時期ではないでしょうか. 
 
また,11月の品質月間の前の月である10月には標準化月間がありますが,標準化の重要性も見直す必要があると思います.改善活動は必要な活動でありますが,改善した結果は標準として定着する必要があります.この標準化なくして,次の改善はないはずです. 
 
問題解決ストーリーや課題達成ストーリーによって,日本の製品やサービスの品質は向上されました.これらのストーリーの最終ステップに「歯止めと標準化」があります.この標準化とは従来の標準を改善後の新たな標準に変える活動です.変えるべき標準がない状況では,標準を定める活動から始められますが,一般的に改善活動とは,従来の標準を改善する活動です. 
 
日常管理の定義には様々ありますが「各部門の担当業務について,その目的を効率的に達成するために日常やらなければならないすべての活動であって,現状を維持する活動を基本とするが,さらに好ましい状態へ改善する活動も含まれる(TQC用語検討委員会)」という定義があります.日常管理も維持と改善が繰り返されますが,ドラスティックな変更は方針管理などによって実施されることになります. 
 
現在,日常管理は定着しているはずになっており,日常管理がなされているかについて,再度考察する必要があるのではないでしょうか.日常管理の推進にはSDCAのサイクルとPDCAのサイクルの違いを認識する必要があり,維持管理活動を忘れた品質管理は,取り返しのつかない結果を招きかねないのではないでしょうか. 
 
以前,狩野紀昭先生が「PDCAサイクルのP,D,C,Aの中で、もっとも重要なのは何?」というトピックスがありました.この中で狩野紀昭先生は「D」という回答を示されていましたが,私も同意見です. 
 
ベーシック・コースでは様々な統計的方法を身につけられたと思いますが、身に付けた知識が使えなければ意味がありません.是非、知を獲得するだけでなく,実業務での実践を通じて、それらの知を
活用できるようになってください. 

 
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