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抜取検査<2019年06月27日>
製品のひとまとまりをロットとして取り扱い、ロットに関する一部の情報を集めることでロット全体のよさを推定することが出来れば、ロット全体に対する合格・不合格の処置を「ロット全体を検査しないままに」決めることが出来ます。全体を検査する必要が無いので、検査コストを下げることができるでしょう。また、データを取るために、製品を破壊しなければならない場合には、そもそも全数検査をすることが出来ません。そこで、抜取検査によって、ロットの品質を保証する必要があります。このような利点や特徴がある一方で、気をつけて使わないと想定よりも不良が多いという事態を招きかねません。
検査とは
抜取検査について詳細を述べる前に、検査とは何かを考えてみたいと思います。検査とは、「製品を何らかの方法で測定・試験した結果を品質判定基準と比較して、個々の製品の良品・不良品を判定する」といわれています。すなわち、検査をすることによって、よくない製品が後工程や顧客の手に渡らないように保証することがねらいということが出来るでしょう。
生産過程のどの段階で行う検査であるかによって、受入検査・工程内検査と最終検査を考えることが出来ます。受入検査であれば、原材料の品質を確保するために行われるということも出来るかと思います。
また、提供する製品の品質を保証するために取得したデータは、自身の工程を振り返るデータとしても用いることが出来ます。工程内検査の方法を見直すであるとか、長期的な不良率の推移などを把握することで、品質保証活動をさらに有効にすすめることができるでしょう。
抜取検査
さて、先ほどは検査とは何かについて述べましたが、それを踏まえて抜取検査をどのように理解することができるでしょうか。抜取検査とは、個々の製品に対しての判断ではなく、ロットという単位に対して、あらかじめ定めておいた方式に従ってサンプリングし、その結果を判定基準と比較して、そのロットの合格・不合格を判定すること、と考えることができます。
ここで注意しなければならないことは、集団全体を調べるのではなく、その一部を取り上げて考える際に陥るさまざまな誤りです。以前のコラムで、サンプリングについて触れました。
(サンプリング<2018年03月20日>
http://www.juse.or.jp/src/mailnews/detail.php?im_id=97)
(サンプリング<2018年03月20日>
http://www.juse.or.jp/src/mailnews/detail.php?im_id=97)
「統計的な考え方をする上では、母集団を意識することがとても大切です。母集団とは、調べる対象の全体を指します。そこで、一部を取り出して調査対象を限定し、そこから得られた情報を全体に当てはまると考えて、推論することがあります。このとき、調査対象を正しく選ばなければ、全体に対する結論を誤ってしまいます。この選ばれた対象をサンプルとよび、これを正しく選ぶためには、適切なサンプリングの方法を決める必要があります。」
抜取検査をするにあたっては、ロットの中に含まれる全ての製品の良品・不良品を一つずつ判定する代わりに、一部のサンプルを代表してデータを取るわけですから、ロットの全体をうまく代表するサンプルを取る必要があります。
連続量であれば、一般には正規分布に従うとして考えればよいでしょう。これに対応した抜取検査方式としては、計量値抜取検査があります。一方で、良品・不良品などの値であれば、二項分布などを基にして検討を行います。これを計数値抜取検査と呼んで大別することが出来ます。
生産者危険と消費者危険
ロットの全体を不良と判定した場合には、それぞれのロット全体を不合格にする必要があります。不合格にしたロットの中身を全て調べることによって、良品のみを選別することもありますが、品質のよいロットを不合格としてしまっては、抜取検査によるコストの削減が困難となります。品質のよいロットを誤って不合格にしてしまうことを生産者危険と呼び、その確率を定めます。生産者危険を5%と設定することが多いようです。
一方で、ロットを購入する立場であれば、想定よりも品質の悪いロットを買うのは避けたいところです。これを消費者危険と呼び、一定の確率を定めて検査方式を設計します。よく使われる値として10%に設定することが知られています。
どの程度の品質のよさをよいロットと呼び、どの程度の品質の悪さを悪いロットと呼ぶかによっても、具体的な検査方法は変わってきます。
様々な抜取検査方式
抜取検査の具体的な方法については、対象とするデータの素性や、検査を実施する状況によって、以下のように分けることが出来ます。
● 計数規準型抜取検査
● 計量規準型抜取検査
● 計数選別型抜取検査
● 調整型抜取検査
計数規準型抜取検査では、ロットの中からサンプルを取り出し、良品・不良品の判定をして、不良品の個数に応じてロットに対する判定を決めますが、計量規準型抜取検査では、得られるデータを計量値として扱い、合格判定値と比較して、ロットに対する判定を下すことが出来ます。また、計数選別型抜取検査では、不合格ロットの処置の内容も決めることが出来ます。
調整型抜取検査は、上記の検査方式の区別とは毛色が少し異なり、売り手が多数存在し、受入れ側が供給者を選定できるときに用いると効果的であるといわれています。調整型抜取検査では、検査の方式を、なみ、きつい、ゆるいの3段階用意します。品質がよいとおもわれる供給者については、ゆるい検査でよいと認めます。品質が悪いと思われる供給者については、きつい検査を求めて、品質の向上をすすめます。
調整型抜取検査では、とくに、合格品質水準(AQL; Acceptable Quality Level)と呼ばれる、抜取り検査を行うために工程平均として満足だと考えられる不良率の上限が用いられる。
おわりに
おわりに
不良品を作らない活動が品質管理の基本ですが、作ってしまった不良品が流れないようにする検査も欠かせない活動です。社内で実施している検査・抜取検査には、様々なものがあるかもしれません。検査項目として何がよいのか、また項目に対する規準の制定が妥当であるかといったことに立ち戻って見直すことで、新たな発見があるかもしれません。紙面の都合上、統計的な詳細については紹介できませんでしたので、興味のある方はJIS Z 9015-1に代表される各種の規格を参照してください。
佐野 雅隆 氏
(さのまさたか)
2006年 田辺製薬㈱(現田辺三菱製薬㈱)入社後 、
2009年 早稲田大学創造理工学研究科経営システム工学専攻(博士課程)、
2010年 早稲田大学助手、博士(工学)取得を経て2012年東京理科大学助教。
2016年より、千葉工業大学。
〈お問い合わせ先〉一般財団法人 日本科学技術連盟 品質経営研修センター 研修運営グループ
〒166-0003 東京都杉並区高円寺南1-2-1 / TEL:03-5378-1213
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