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第15回 知識構造化シンポジウム

第15回知識構造化シンポジウム 開催レポート
『製品・組織の壁を超えて進化する知識マネジメント』
   

SSM (Stress-Strength Model)について詳しく知りたい方は、以下のWebサイトをご参照ください。

▶ (株)構造化知識研究所

1. はじめに

第15回知識構造化シンポジウムが、2023年9月15日(金)に日本科学技術連盟・東高円寺ビルにてライブ配信で開催された。今年のシンポジウムでは、SSMを活用した全社ノウハウの共有による品質不具合未然防止の取り組み、不具合の原因分析と再発防止策立案を強化する取り組み、設計品質向上のための知識運用の様々な工夫について講演や議論が行われた。

 

2. プログラム

時間 内容/講演者(敬称略)
13:30~13:40 オリエンテーション
13:40~14:15 事例講演1:「SSMを活用した全社ノウハウの共有による品質不具合未然防止の取り組み」
下地 信宏日本特殊陶業株式会社 ビジネスサポートカンパニー
品質統括部 品質保証推進課 課長
武内 湧也日本特殊陶業株式会社 ビジネスサポートカンパニー
品質統括部 品質保証推進課
14:15~14:50 事例講演2:「廃棄物処理施設の設計・施行における
品質不適合削減のためのSSM活用と原因分析強化」
小山 悟株式会社神鋼環境ソリューション 品質環境防災部 品質環境室 室長
兵頭 太一株式会社神鋼環境ソリューション 品質環境防災部 品質環境室
14:50~15:05 休憩
15:05~15:40 事例講演3:「照明・光環境機器の設計品質向上のためのSSM活用と様々な工夫」
佐伯 創岩崎電機株式会社 商品間発部 開発課
15:40~16:10 特別解説:「構造化知識マネジメントの導入方法と最新動向」
長谷川 充株式会社構造化知識研究所 シニアコンサルタント
16:10~16:50 総合討論:
パネリスト:全講演者
コーディネータ:田村 泰彦 株式会社構造化知識研究所 代表取締役
16:50~17:00 まとめ

 

3. 講演要旨

〔事例講演1〕 「SSMを活用した全社ノウハウの共有による品質不具合未然防止の取り組み」

下地 信宏 氏(日本特殊陶業(株) ビジネスサポートカンパニー 品質統括部 品質保証推進課 課長)
武内 湧也 氏(日本特殊陶業(株) ビジネスサポートカンパニー 品質統括部 品質保証推進課)

同社は、総合セラミックスメーカーとしてスパークプラグなどのセラミックス材料技術と半導体パッケージなどのセラミックス成形技術をベースに、多種多様な製品を社会に提供している。本講演では、SSMを活用した全社ノウハウの共有による品質不具合未然防止の取り組みについて紹介された。

同社では、事業領域の拡大とともに業界・製品ごとに事業組織を分けてきた背景があり、技術的な知見や過去トラなどのノウハウが各事業組織固有のものとして管理されていたため、全社でノウハウの共有や活用をすることが難しく、全社視点では類似した品質不具合が発生していた。そこで、SSMを導入することで各事業組織のノウハウを全社で共有・活用し、品質不具合の未然防止・再発防止を図ることとした。

コーポレート部門である品質統括部が全社のSSMの導入・活用を推進し、2020年度からSSMのトライアルを開始した。その後、取り組みを開始した全社ノウハウのSSM化では、ある事業組織の事例そのものでは、他の事業組織/製品・工程の壁を超えた知識活用が難しいため、SSM知識を作成する際に、具体名を排除して一般化した知識を作成した。さらに業界の壁も超えた知識活用ができるように、多様な視点で概念化した(超一般化した)知識を作成するようにした。また、複数人のベテランの頭の中のノウハウもSSM化に取り組んだ。この取り組みでは、面着によるヒアリングを行い、今まで携わった製品・部品・材料、工程・作業に焦点を当てて聞くなどして過去の知見を引き出すよう工夫した。その他にも、製品安全に関して公開されている社外の一般情報や、品質統括部の社内コンサルの中で得られた知見などもSSM知識化し、今ではFMEA、過去トラ、ベテラン、社外情報の4つの情報ソースから作成したSSM知識を全社ノウハウとして活用できる状態としている。

SSM知識化した全社ノウハウは、QFD・FMEAの作成・改訂時にリスク分析の抜け漏れを低減する目的や、工程監査・工程パトロール時の工程内のチェックや改善・是正対応のために活用している。その他、品質不具合発生時の要因洗い出しや対策立案などにも活用している。

SSM活用を全社へ推進するために、全社向け説明会やポータルサイト上の社内CM枠を活用する等をして全社員に向けてアピールしている。蓄積したSSMの有効性評価を行うと、過去の重大な品質問題・顧客クレームはSSMによる全社ノウハウを活用すれば大部分を防ぐことが出来ると分かったため、引き続き、全事業組織に対してSSM活用を推進し、品質不具合の未然防止を図っていく予定である。

今後は全事業組織のエンジニアが自律的にSSMを活用できるように社内で挙がった課題と向き合い、より活発なSSM活動を展開していく。

 

〔事例講演2〕 「廃棄物処理施設の設計・施行における品質不適合削減のためのSSM活用と原因分析強化」

小山 悟 氏((株)神鋼ソリューション 品質環境防災部 品質環境室 室長)
兵頭 太一 氏((株)神鋼ソリューション 品質環境防災部 品質環境室)

同社は、廃棄物処理、水処理、化学プロセス機器を中心とした装置・設備の設計、製造などを行っている。本講演では、廃棄物処理関連事業のエンジニアリング技術部門が中心となって取り組んでいるSSM活動および原因分析ツリー作成支援ツールを活用した不具合原因分析と再発防止策立案の強化の取り組みに関して紹介された。

同社では、全社品質目標として、「不適合対策の強化、クレーム再発防止と未然防止の徹底」を掲げている(同社では、顧客引渡し前に発生した不適合を「不適合」、顧客引渡し後に発生した不適合を「クレーム」と定義している)。この全社品質目標の達成に向けて、「設計から運転、維持管理まで様々な業務における再発防止・未然防止の検討が必要」、「過去のクレーム事例の内容を理解するのに時間が掛かる」、「不適合事例などクレーム事例以外の情報の保管場所がばらばらで活用しにくい」などの課題があった。これらの課題を解決するためにSSMを導入し、取り組みを進めている。

2020年度からトライアルを開始し、品質環境防災部が事務局となり、複数の部署と共に取り組みを進めてきた。クレーム処理票および各プロジェクトで起きた不適合事例のSSM知識化を行い、クレーム事例と不適合事例から作成したSSM知識を一元管理できるようにした。また、環境プラントの技術者向けには「機器リスト」から、建設技術部の技術者向けには「工種」から検索できる仕組みを構築し、各技術者の業務の進め方に応じて馴染みのあるリストを用いて知識検索を行えるようにした。また、検索した知識を帳票に出力する際、クレーム処理票から作成した知識と不適合情報から作成した知識を分けて出力し、それぞれの情報源の特徴に合わせて確認できるようにした。

さらに、クレーム処理票を作成する際の原因分析強化を目的に原因分析ツリー作成支援ツール(ESCAT)を導入した。これにより、SSMの考え方を活用した原因分析結果を整理することが可能となり、再発防止策を立てやすくなった。また、作成した原因分析ツリーから容易にSSM知識ドラフトに変換し知識をブラッシュアップすることができるため、SSM知識化の作業負荷軽減にも繋がった。

同社では、これまで年に3回以上の頻度でユーザへの説明会を実施し、本取り組みの周知・定着を進めてきた。また、品質環境防災部はDIR/DR会議に積極的に参加しており、クレーム事例・不適合事例から作成した知識を出力し情報提供している。

今後は、継続してSSM知識化を推進し、現行のシステムを進化させていくとともに、SSM導入成果の評価および新規案件の設計業務へのSSM適用を進め、取り組みを更に発展させていく。

 

〔事例講演3〕 「照明・光環境機器の設計品質向上のためのSSM活用と様々な工夫」

佐伯 創 氏(岩崎電機(株) 商品開発部 開発課)

 

同社は、各種光源・照明器具・光環境機器(紫外線・赤外線・電子線応用)等の設計、製造および販売を行っている。グループ会社が先行してSSMを導入しており、同社でも未然防止に有効な手段と考え、2017年にSSMを導入し未然防止活動に役立ててきた。本講演では、その取り組みに関して紹介された。

放電灯用やLED照明用の電源・器具を設計製造している同社のグループ会社において、「市場不具合が減らない」、「不具合情報が共有されない」、「設計者のスキル依存大」という課題を抱えており、2011年にグループ会社が先行してSSMを導入したのが始まりであった。導入後、設計起因の不具合が減り、再発防止、未然防止に効果があったことから、同じ課題を抱えていた同社でも、2017年にSSMを導入した。

同社の複数の部署およびグループ会社で合計25名となるメンバーで体制を整え、推進活動を行ってきた。運用部署が複数あるため、共通の知識管理部門が必要となり、品質保証部が主体となって知識を管理することにした。知識は「クレーム」、「設計中の気づき、コツ」、「新分野での新知識」を情報源に、「知識化する情報源の選定」から「知識作成・登録」までをおよそ3カ月で完了するようなサイクルを構築し、順調にSSM知識数を増やしている。

一方で、SSM知識作成において、「初心者が知識化する際に苦労する」や「知識整理時にどのようなキーワードを使用すべきか迷う」などの課題があった。そこで独自の「知識作成シート」を準備し、初心者でも作成手順に従って入力すると簡単に知識を作成することができるようにした。また、過去に記述したキーワードリストを準備し、既存のキーワードから選択できるようにすることで類似のキーワードが増えないようにし、知識作成における課題を解決した。

登録した知識は、「電源」、「器具・ランプ」、「光環境」の各分野別で検索できるように検索入口を構築し、検索した知識はチェックリストに出力できるようになっている。このチェックリストを出力しないとデザインレビューができないようにルール化しており、確実に知識を活用する仕組みとしている。

このようなSSMの取り組みを社内グループウェアの掲示板や、社内の通路の掲示板(ポスター)に掲載し、紹介した。特にポスターは営業の方も通行するエリアに掲載したため、技術者以外の方にもこの取り組みを知ってもらえる機会となった。

利用者からアンケートを取ると、知識が新しい気づきにつながるなど業務に役立っていることが分かった。また知識検索の進め方に関する改善や製造分野での知識の蓄積などの要望が挙がっていた。今後は、利用者が自身の課題に適した検索語句の選択を支援する仕組みづくりや製造分野の知識の蓄積を行い、SSM活動を発展させていく。

 

〔特別解説〕 「構造化知識マネジメントの導入方法と最新動向」

長谷川 充 氏((株)構造化知識研究所 シニアコンサルタント)

 

SSMは、電機・電子部品、自動車・輸送用機器、精密機器、産業機械・プラント設備、住宅設備、素材などの様々な業種で拡大している。技術分野では機構・電気・ソフトのほか、生産技術、メンテナンスなど幅広い領域で取り組みが進められている。

SSM活動の導入・定着のポイントとして、適切なチームの人選を行うこと、最初は業務部署や技術分野をある程度絞り、具体的な再発防止・未然防止の課題に対してトライアルを行うこと、トライアル結果が課題解決に繋がっているかを評価し、適宜改善すること、さらに未然防止の強化には、社内に限らず業界で公開されている情報・文献の利用を検討すること、継続的な知識運用を行うために、組織全体が連携した取り組みとすることなどが挙げられる。

SSM導入各社は、業務ニーズに応じて知識を活用するために様々な工夫を施している。
設計アイテムの変更点に対するリスク検討に限らず、環境条件や使用条件、ユーザの使い方などの変化点から影響を受けるアイテムと不具合を気づかせる仕組み、複数部門に関係のある知識に対してそれぞれの部門向けの教訓をしっかりと整理し、部署を横断した知識活用をする仕組みなどが挙げられる。また、知識構造化の観点を利用した原因分析ツリー図により、要因や再発防止策の抜け漏れを防ぎ、質の高い教訓を残す仕組み、知識を活用したトラブルシューティング支援、不具合情報・知識を円滑に整理・蓄積する仕組みなど、SSMはトラブル初期対応から原因分析、知識の整理、未然防止・再発防止まで一連の活動において役立てることができる。

今後SSMの導入を検討される方々には、紹介された内容をぜひご活用頂きたい。

 

4. 総合討論

 

(株)構造化知識研究所代表取締役の田村泰彦氏がコーディネータとなり、講演者とシンポジウム参加者との間で総合討論が行われた。講演各社における知識整理・活用の具体的な工夫、SSM推進部署の役割や人材教育、他部署や経営層との連携、SSM導入段階における苦労話など終了時間まで盛んな議論が行われた。

    

 

 

5. おわりに

今回のシンポジウムはライブ配信での開催であったが、ライブ配信の参加者から非常に多くの質問がチャットで寄せられ、SSM活動への関心の高さが伺えた。今回の講演では、他の事業組織に水平展開するためのSSM化の工夫、知識作成を容易にするための取り組みなどが紹介された。未然防止、再発防止活動で苦労されている方々や、SSMの導入、今後の発展を検討している方々にとって、本シンポジウムはとても参考になったであろう。

(文責:小林 計太)

 

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