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第37回信頼性・保全性シンポジウム 推奨報文・奨励報文の紹介

佐藤 吉信
東京海洋大学教授 海洋工学部海事システム工学科
信頼性・保全性シンポジウム推奨報文小委員会委員長

 
   去る2007年7月17日〜18日に開催された第37回信頼性・保全性シンポジウムにおける推奨報文・奨励報文・特別賞が、9月14日の組織委員会で決定されましたのでご報告します。  
 

推奨報文制度の目的と選考方法


 
 

 本表彰制度は、研究発表者のインセンティブを喚起するとともに、一般参加者には推奨報文の推薦を通して本シンポジウムへ積極的に参画していただくことをねらいとしています。これにより、報文を含む発表内容の質の向上が期待され、本シンポジウムの発展に役立つと考えています。
 本シンポジウムは、企業の第一線で活躍されている研究者や技術者の方々が現実的に重要な信頼性、保全性さらにヒューマンエラー防止など安全性にかかわる問題を解決していくための知見を共有する場でもあるという特長をもっています。すなわち、発表者と参加者との討論により、問題点を整理し、得られた知見をより体系化し、知識の共有化を図ることを目的としています。
 このようなねらいと背景から、参加者全ての方々に幅広く推奨報文の推薦をお願いし、これに基づいて選考を進めています。本年も参加者の皆様の多様な視点から、多くの報文の推薦をいただきました。推薦された全ての報文について、慎重に審議し、下記に示す報文3件を「推奨報文賞」として選考しました。

 
 

Session No:4-3


 
 

報文名:航空機用7075アルミ合金の腐食環境下におけるshort crack挙動の評価
著 者:岡田 孝雄(宇宙航空研究開発機構)

 
 

Session No:4-4


 
 

報文名:直交するノイズ評価を組み合わせた加速試験による定着装置の寿命評価
著 者:武藤 弘次、原島 瑞靖(富士ゼロックス(株))

 
 

Session No:6-4


 
 

報文名:はんだ接合部の熱疲労寿命に及ぼす温度変化率の影響
著 者:辻江 一作、青木 雄一(エスペック(株))、永井 孝幸(エスペックテストセンター(株))

 
 


 また、一般投票では灯のあたりにくい専門分野や理論的な研究について、今後の信頼性・保全性の研究や発展を期待して奨励報文制度も設けています。今年度は下記に示す報文1件を「奨励報文賞」として選考しました。

Session No:8-2


 
 

報文名:エラーの種類に着目したエラープルーフに関する一考察
著 者:青木 健、鈴木 和幸(電気通信大学)

 
 


 さらに、特別賞として、未然防止活動を継続的に実行してきた研究であり、発表内容が啓蒙的で、参加者にとって大いに有益であると判断される下記に示す報文1件を「特別賞」として選考しました。

Session No:5-4


 
 

報文名:生産革新に対応した工程のFMEA・FTAによる品質問題の未然防止活動
著 者:花村 和男(アイシン精機(株))、広瀬 幸雄(金沢大学)

 
 



推奨報文・奨励報文・特別賞の選考理由


 以下に、推奨報文、奨励報文、特別賞の選考理由を記します。なお、○印は発表者です。


【推奨報文賞】


推奨報文1


 
 

「航空機用7075アルミ合金の腐食環境下におけるshort crack挙動の評価」
○岡田 孝雄(宇宙航空研究開発機構)

 現在の航空機構造における疲労損傷評価は、小さな欠陥や損傷の存在を前提として、その後のき裂進展や破壊に到る限界き裂長さを対象としています。すなわち、存在を前提とした腐食損傷と初期の微小疲労き裂(short crack)進展に関してはほとんど調べられていませんでした。
 そこで本研究は、腐食損傷(材料内の析出物も含む)と腐食環境下における初期の疲労き裂挙動を実験的に解明することを目標としました。試験片は実機構造に使用された7075アルミニウム合金から切り出したものを用い、腐食疲労環境下において疲労き裂の起点となる腐食ピットや材料内の析出物などを試験中及び試験後にSEM観察により調べ、さらに厳しい腐食環境下において、これらを起点とする初期き裂進展挙動について明らかにしました。これらの研究内容は腐食による損傷の形成及び疲労き裂進展を取り入れた全寿命予測の実現に寄与し、経年航空機の構造において腐食を受ける場合の寿命予測及び信頼性の向上に寄与すると考えられるため推奨報文賞として選定します。

 
 

推奨報文2


 
 

「直交するノイズ評価を組み合わせた加速試験による定着装置の寿命評価」
○武藤 弘次、 原島 瑞靖(富士ゼロックス(株))

 著者らが所属する企業では、製品の機能や品質を効率的に精度良く評価する試験方法として、様々なノイズ(外乱、内乱)を直行表や多元配置に割付けて実施するHarry法(Hardware test method by almost orthogonal array)と呼ぶ手法を開発しています。
 従来は、各種ノイズの単一レベルをそれぞれ組合せた「点」による評価法を実施してきましたが、Harry法は各種ノイズの複数レベルを直交表や多元配置により割りつける「空間枠」評価方法を採用しています。この方法によれば、「点」による評価のように、その都度トラブルの抽出と改善といったもぐら叩きのような悪循環には陥り難く、多次元的に広がるノイズに対しトラブルの抽出力に優れているため、高い信憑性のある結果が得られます。
 本報文は複写機定着装置の紙しわ問題を対象とし、温度加速とHarry法を組み合わせて寿命を推定しました。本手法は応用範囲が広く、使い方によっては実用的に非常に有効であると考えられるので、推奨報文賞として選定します。

 
 

推奨報文3


 
 

「はんだ接合部の熱疲労寿命に及ぼす温度変化率の影響」
○辻江 一作、 青木 雄一(エスペック(株))、 永井 孝幸(エスペックテストセンター(株))

 はんだ接合部の熱疲労評価試験の国際規格を確立する上で、試験条件と市場との相関性を高めるために、温度変化率を規定することが求められています。
 本報文では、チップ抵抗など基板と熱膨張係数の大きく異なる部品をリードレスではんだ接合する場合に着目し、チップの大きさ(4種類)及び温度変化率を変えて(気槽式で15℃/min、30℃/min、及び液槽式)熱疲労寿命を評価しました。この結果、部品が大きいほど、また、温度変化率が大きいほど寿命が短くなることが示されました。これらの関係は、ほぼべき乗則で表せます。一方、液槽式では、気槽式より寿命が短く、破断形態が異なっています。これは、基板のそりの影響であると推察しています。基板のそりは、両面にひずみゲージを貼り付けて、そのひずみ量の差で評価しています。
 これらの結果は、はんだ接合部の熱疲労評価試験方法確立のための基礎的データを提供するものであり、高く評価できます。以上の点から推奨報文賞として選定します。

 
 


【奨励報文賞】


 
 

「エラーの種類に着目したエラープルーフに関する一考察」
○青木 健、 鈴木 和幸(電気通信大学)

 ヒューマンエラーはslip、lapse、mistakeの3種類に分類されることが知られています。本論文では、それぞれに適したエラー対策を選択するために、ラスムッセンによるSRKモデルと人間の情報処理段階との対応付けを行い、3種類のエラーの発生プロセスを明らかにしました。さらに、エラープルーフ化の原理と組み合わせることで、エラーの発生段階に応じた効果的な対策を抽出できることを示しています。
 それらは、市場製品や組立工場でのエラープルーフ事例200件を収集し、有効となるエラープルーフを検討した結果、導かれたものです。3種類のエラー別にまとめられた表は、未然防止対策の実現への効果的なガイドラインとなっており、価値のある結果といえます。
 本論文は、大学院生らによる精力的な研究発表であり、今後のさらなる研究の発展が期待されることから奨励報文賞に選定いたします。

 
 


【特別賞】


 
 

「生産革新に対応した工程のFMEA・FTAによる品質問題の未然防止活動」
○花村 和男(アイシン精機(株))、 広瀬 幸雄(金沢大学)

 自動車産業では、新製品の開発期間短縮、生産工程の革新が急速に進められています。しかし、生産工程の革新に対して短期間で品質問題を未然に防止する手法は確立されていません。そこで、本報文は、工程のFMEA及び生産設備のFTAを組み合わせて、これを効果的に活用する方法を示したものです。7年間に及ぶ「工程FMEA・FTA」の実践的教育で関係スタッフの65%にこの手法を習得させ、チーム作業で160件の実践事例を生み出しています。具体的な事例では、鋳造工程の革新に対して、先ず、FMEAで工程の機能と工程の故障モードを明確にし、次に、その主原因となる生産設備の故障に対してFTAを実施し、故障予防保全計画を立案します。これらの活動は、記録として残し、全社的に利用できるようにしています。
 工程のFMEAは、よく知られた手法ですが、これを生産設備のFTAと組み合わせ、チーム作業で効果的に活用するなどの工夫が示されており、また、これまでにこの関係で一連の発表があり、これらの貢献を高く評価し、特別賞に選定します。

 
 


 
 

 最近の製品トラブルでは、信頼性の問題が安全性に直結して悪影響を及ぼしている場合が多々見受けられます。社会で、安全・安心への関心が高まっている所以でもありましょう。安全性は信頼性を犠牲にして達成できることもあります。しかし、安心はむしろ安全性と信頼性との両性質の両立を求めているところにあると考えられます。
 本シンポジウムは、信頼性と安全性の両側面を矛盾無く追求する場でもありましょう。安全・安心を実現するための役割を果たすために、その重要度は一層増大しております。本表彰制度は、発表報文の質の向上と拡大へ向けた動機付けとしての役割を果たすべく、その意義を益々高めていると考えます。

 
 


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